
先日、奈良・正暦寺で行われている*菩提酛(ぼだいもと)*の酒造りを、初めて見学してきました。
菩提酛は、約600年前にこの地で生まれた、日本酒づくり(清酒)の原点ともいえる方法です。
お米と水を使い、自然に乳酸菌を育てるそやし水を使って酒のもとをつくる工程は、時間と発酵の力を大切にするものでした。
見学を通して感じた菩提酛の考え方と私たちが日々向き合っている天然酵母パンの発酵と近いようで違う発酵の奥深さのようなものです。
ただ、一度廃れてしまった菩提酛という技術を復活させたことは並々ならぬ苦労と楽しさがあったんだろうなと思います。
発酵という文化を改めて実感した一日でした。

菩提酛とは、日本でいちばん古いと考えられている*日本酒のもと(酒母)*の作り方です。
今からおよそ600年くらい前、奈良県にある正暦寺(しょうりゃくじ)というお寺で生まれました。
昔の日本酒づくりは、今のように工場や酒蔵ではなく、お寺が中心になって行われていました。
お寺で作られたお酒は「僧坊酒(そうぼうしゅ)」と呼ばれ、戦国時代には織田信長や豊臣秀吉も「おいしい」とほめた記録が残っています。

菩提酛の一番の特徴は、*「そやし水」*という特別な水を先に作ることです。

- まだ蒸していないお米を水につけておく
- すると、自然に乳酸菌が増えて、水が少しすっぱくなる
- このすっぱい水(そやし水)を使って、日本酒のもとを育てる
この方法のおかげで、悪い菌が増えにくくなり、安全にお酒を作ることができました。
冷蔵庫のない昔でも、夏に酒づくりができた、とてもすごい製法だったのです。
江戸時代になると、政治の中心が江戸に移り、お寺の力が弱くなりました。
そのため、お寺での酒づくりはだんだん行われなくなり、菩提酛の技術も長い間使われなくなってしまいました。
時代が進み、日本酒を飲む人が減ってきた中で、
「日本酒の原点をもう一度見直そう」と考えた奈良の酒蔵や研究者たちが集まり、
昔の文献を調べ、正暦寺に残っていた乳酸菌や酵母を使って、
1999年に菩提酛を復活させました。
今では、正暦寺で作られた菩提酛を酒蔵が持ち帰り、
それぞれの工夫で日本酒を仕込み、同じ菩提酛でも味が違う日本酒が生まれています。
菩提酛という作りは室町時代という顕微鏡なんてない時代から現代でも通用し、夏でも仕込みができる画期的な技術を開発したのはそれだけのお酒好きが集まったのかななど想像が膨らみます。
そんな菩提酛は日本の清酒の原点であり、日本の発酵文化や知恵がつまった、大切な技術です。
そんな技術を古文書のような文献から研究し現実に復活させたのは非常にすごいなと改めて感じました。
